歌舞伎に恋におちた日のコト。
それは大雪の日に。
2016年1月の浅草新春歌舞伎。
人生初の歌舞伎。
初めて見る鮮やかな舞台はタイムスリップをしたようで、本当に素敵だった。
でもとりわけ心に残っているのは、行く前にかけた歌舞伎座の方への電話。
その日は、前の晩からつもった雪で、あらゆる交通機関が朝からマヒしていた。
よりによって…と恨めしく思いつつ、中止になるかもしれないと思い、浅草公会堂へ電話をかけていた。
「はい、本日も公演致します。お足下がお悪い中恐れ入りますが、お気をつけてお越しくださいませ。
心よりお待ち申し上ております。」
公会堂の方にかわって対応して下さった歌舞伎座の男性が、とても柔らかで丁寧で。
私の口調があまりにも子供っぽく感じられて、どぎまぎしてしまったのを覚えている。
歌舞伎の魅力【美しい言葉づかい】
歌舞伎の魅力の一つとして「美しい大和言葉」がある。
少し古めかしい言葉づかいなのだけれど、それがまた堪らなく美しい。
たとえばお酒を勧められた踊り子が
「不調者にございますれば…」
(俺の酒が飲めないのか、と言われて)「どうかお許しくだされませ」と
ゆったりと、でも断固として断る。
あるいは、何かをしてもらった際に
「いたく心に響きました」
「そのお心差し・・・」など。
一つ一つの言葉が丁寧で、その遣り取りは美しい絹織物のよう。
ほう…と見惚れてしまう。
大和言葉は一音一音に意味があり、とても奥深くてハマってしまった。
「歌舞伎の魅力」シリーズとして後日まとめたい。
あの雪の朝が、私を救ってくれた。
あの頃の私は会社を辞めたばかりで、なんだか心が荒んでいた。
綺麗なのは体面や外側だけで、どうせ現実はドロドロしてると思っていた。
美しさとか、優しさとか、そんなものがとても遠かった。
そんなときに「舞台の上」だけではなく「現実」として、やわらかくて素敵な人に(電話越しだけど)会えたことが、とても嬉しかったのかもしれません。
あの朝、雪で電車が止まっていて、電話をかけていなければ・・・
ここまで歌舞伎にハマっていなかったでしょう。
恨めしかった雪だけれど、降ってくれてよかった。
お蔭で、歌舞伎を好きになって、世界を好きになって、自分を好きになれた私がここにいます。
本当に、ありがとう。